#006 山本あき 画家
2022.12.20
2022.12.20
画家の山本あきさんのアトリエに入ると春の芽吹きを思わせるような色とりどりの色彩が目に飛び込んできた。
アトリエの壁には大きな正方形の作品が2枚。
クリーム色のキャンバスに描かれた色鮮やかな鹿たちが、静かな眼差しをこちら側に向けている。
憂いを帯びたような眼差し。
けれども、不思議な懐かしさと温もりを感じる。
やわらかな温かみのあるキャンバスについて訊ねると「自分で漉いた和紙をキャンバスに貼っているんですよ」と山本さん。
植物の繊維から作られる和紙は自然のもつ温かさがあり、その風合いと、鮮やかな色彩のコントラストに目が惹きつけられる。
命を描くことをテーマに作品を制作している山本さんは、キャンバスにも自然界にある植物から生まれた和紙を貼り、その中に生きている動物たちを描いている。
凛とした佇まいながら、穏やかな口調で山本さんは語ってくれた。
「子供が生まれてから、ドラマとかの小さな子のかわいそうなシーンが苦手になったんです。それもあって、今描いているウサギの作品は愛されていることを信じているウサギにしようと思って」
朱色やピンクなど、暖色で彩られたウサギたちは、純粋無垢な瞳でわたしたちを見つめている。
描かれた動物というより、動物たちは自ずから語りかけ、歌い、笑い、生き生きとそこに存在しているようだ。
「命とは、流れている時間でもあると思っています」と山本さんは語る。
静かで落ち着いた声色の中にも、いのちあるものへの愛情や尊敬、情熱が滲む。
ーーいま、この一瞬を生きている命の時間を描きたい。
絵が生きものそのものであるように。
最初にコンセプトを固めず、手が動くままに感覚的にエスキース(下絵)を作り、絵と会話しながらどんな作品にするか決まっていくのだそう。
予定されたものではなく、生きものと対話し、動かしながら制作していく。
そうして生まれた命あるものたちは、まるでずっと前からそこに存在していたかのように、私たちと同じ時間をいまも生き続けている。
山本あきです。
自分で漉いた手漉き和紙にアクリル絵の具を使って絵を描いています。
生きているとはどういうことかというのを共通のテーマにして「命の気配のある絵画」を制作しています。
今回のうさぎの作品は、「幸せで、受ける愛情も当たり前に思っている。それに対して何にも不思議だなって思っていない」みたいなうさぎを描きたいなと思って描きました。
私の子供が1歳9ヶ月なんですが、その子が生まれてから子供が大人の勝手で寂しい思いをしたりですとか、悲しい思いをしたりというのが、ドラマとか映画とかでも見れなくなってしまって。
そんな大したことは全然私にはできないんですけど、みんなの子供が幸せに愛情いっぱいに育ったらいいなという思いがあって、それを今回のテーマにうさぎの作品を描きました。
flowという作品です。
こちらにちらっと映っているかなと思いますが、大地とか水とか風とか植物とか生き物とか、ながーい年月の流れの中で何度も生まれたりとか、その後死んで、また生まれ変わったりとかまた別のものに生まれたりとか…そうやってずーっと繋がっていくもの、ずっと繋がっていくけれどそこにあるものを描きました。
これ(絵の中の空間)は、この作品を描いたときに「欠けてる」とか「足りない」というのが結構大きいテーマになっていて。
なんて言う本だったかな…「僕のかけらを探して」だったかな。子供の頃にすごく好きだった絵本があって。
そこから発想を得て「足りない」というのは響きがネガティブな感じに聞こえるけど「足りないからこそ頑張れる」とか「足りないからこそ支えられる」とか、足りないというのが大事なことだなと思って、はっきりわかるようにこういう風に描いています。
だから、丸だけじゃなくてこういうところを塗っていないのも「未完成」じゃないですけど、もちろん(作品として)完成はしてるんですけど「足りない」というか「完全に完成していない」という状態が、リアルだなと思って空いています。
(同じ構図の作品が)2つあるじゃないですか。こっち(左の作品)は自分の中で「たまゆら」と呼んでいます。
たまゆらって日本語で「勾玉が触れ合ったときに鳴る音」という意味で、本当に一瞬というような意味なんですけど。
生きていることって、命があるってことで…。「命がある」ってなんだろうと考えたときに「時間」なんじゃないかなと思ったんですよね。
それで、その一瞬をなんとか描きとめたいなと思ってこの「たまゆら」というのを作ったんですよね。
あとは何て言うんですかね…いきものを表現するというか(絵が)いきものになって欲しいんですよね。
だから、和紙の素材があって、絵の具の素材があって、その素材自体が見えてくるようにこっち(たまゆら)は描いていて。
もうひとつの方はすごくぺたっと塗ってあるんですけど、これは色を見せたいというか…私が色のことがすごく好きなんです。
フォーヴィスムって昔の絵画の運動というか、絵画の流れがあるんですけど、その人たちは色で何かを伝えるというのを(していました)。
結構、私の中では(色は)大事なことで、伝えるときにぺたっと、ぱちっと見える方がいいかなと思ってこちらはそういう風に描いています。
まずは小さい下書き(エスキース)で下図を作っていくんですけど、そのときは何かを伝えたいと思って描いているわけではなくて、本当に手が動くまま描いていて。
自分の中の感覚でこれが正解だと思うものをある程度小さいもので作って、あとは写真とか動画とか見ながら。
細かいところの形がわからないので、自分で取材してきた写真とかもたくさんあって。
描いてる間に、この子がこっちを向いているというのは「私がこないだ考えていたあれを表現しているんだろうな」とか。
絵と会話をしながら「これはこういう意味で、こういうことが言いたかったんだ」って描いている間にテーマとかコンセプトが固まっていくことが結構多いです。
基本的には下書きを作るまでの間になんとなくコンセプトが固まっていくという感じですね。
私が一番最初から気をつけていることは「状況を整えておくこと」かなと思っています。
絵を描くスペースがあって、描く時間があって、発表する場所があって、応援してくださる方がいらっしゃる。
ここを整えておかないと、例えば描く場所がなければやろうという気持ちにならない、みたいなことがあるなと思っていますね。
あとは、子供が生まれてからやれることがすごく少なくなって。
人生でやりたいことは、まずは家族との時間、次は絵。それでいっぱいなんですよね。だから絵が仕事になっていれば、作家を続けていくことができるなって。ちょっと現実的ですけどそう思っています。
作家活動をしながら中学校で非常勤の講師をすごく長い間していました。
そのときに美術史の小話みたいなのを毎時間、授業の最初に5分か10分くらいするようにしていたんですよ。
そうすると生徒はすごく面白がってくれて。
美術の授業って絵を描くだけかなと思っていた子が「絵を描くのは得意じゃないけど、なんかそういうの面白いかもしれない」みたいな感じで、あいちトリエンナーレとか(現在の国際芸術祭あいち2022)に子供だけで遊びに行ってくれたりとか、美術館に行ってくれたりとか、そういうことがあって。
だからそういう地道な、子供の頃からの(アートが)近くにあるとかそういう感じが大事だなと思っていて。
そのためにどうしたらいいかと言うと、アートをやっている側の人がもっとこう、アートを面白いもんだなと思って、それをまた、いろんなところで喋ったりとかしていく。
だから、アートをやっている大人がアートをもっと楽しむというのが最初で、そこから先入観のあまりない人たちとかにちょっとずつ広まっていくのがいいんじゃないかなって私は思っています。
非常勤講師のご経験がある山本さんは、絵のことやご自身についてのお話がわかりやすく、限られた時間の中で濃密なお話を伺うことができました。
山本さんの落ち着いた話し方とまなざしから、いきものへの慈しみと愛情がまっすぐに伝わってくるとともに、色とりどりのいきものたちの世界をもっと見てみたいと感じました。
来年には個展も開催予定とのことなので、ご興味のある方はぜひご覧ください!
〈ギャラリーマルキーズ〉
個展
2023年 2/8(水)〜19(日)
月火休廊
12:00〜17:30
最終日16:00終了
〈豊田画廊〉
2022年 12/14(水)~12/29(木)
火曜定休
「歳末絵画蔵出し市
-同時開催-吉祥うさぎ展」
2023年 1/4(水)~1/9(月)
「新春絵画蔵出し市
-同時開催-吉祥うさぎ展」
※〈大阪高島屋、岡南ギャラリー〉
12月ごろ、干支のグループ展
※〈上野松坂屋〉
1月25日〜31日
※についての詳細は山本あきさんのSNSで詳細が分かり次第告知いたします。