作成者別アーカイブ: イトウ ユキコ

アートは体感からはじまる

イベント、と聞くと少し身構えてしまうのはなぜだろう。

イベントの持つ非日常的な空気、イベントに集まる大勢の人、何か特別なところに入り込もうとする勇気。

そのどれもが少しずつ苦手で、いつの間にか足を運べないままイベントが終わってしまう。

そんな私にとって、久しぶりに心を惹かれたイベントが2022年4月に初めて開催された「Land of Pottery」だった。

アーティスティックな表現も好きだけれど、アートとクラフトの両面を持っている陶芸に関心を持つようになって数年が経つ。

個展や陶器市に足を運んで、お気に入りの食器を選ぶ。

料理をして、うつわを選んで盛り付ける。

日々の暮らしの中で、もっとも身近にアートを楽しめる機会のひとつだと思う。

個展以外にも最近増えてきたマルシェや、焼き物の産地で定期的に開催される陶器市でも作品は買えるし、作家さんにも会える。

けれど、既に形が出来上がった作品から選ぶことしかできない。

そういえば、うつわを好きになってから時間が経つのに、どのような過程を経て身近な陶器ができているのか知らないままに過ごしてきたという気もしていた。

「Land of Pottery」は作家さんがお客さんに直接販売するという従来のスタイルだけではなく、実際の制作過程を見せてくれるという。

どんな風に作っているんだろう、と心がわくわくした。

小雨が降る中、尾張瀬戸駅から少し離れた住宅街にある旧深川小学校へ向かう。

勾配のある細い曲がり道は、少し先の景色に意外性をもたらすのだな、と自分の知らない街を歩くことに少し高揚した。

「瀬戸体感陶器市」と謳われるそのイベントは、瀬戸の窯業に関わる人やコトにスポットが当てられていた。

これまでモノ・作品を買えるイベントはあったけれど、実際に作り手の人やプロセスを知れる機会は少なかったように思う。

作家さんの出展ブースでは、ロクロを回している人、釉薬の違いを見せてくれる人、染付の様子を実演してくれる人、などさまざまな形で制作風景を実演していた。

そこにふらりと立ち寄って買い物をする人もいれば、じっくりと制作の様子を見て質問している人もいる。

そのフラットで自然な距離感が「イベント」への気負いをなくして、リラックスした気持ちに変わっていった。

実際に制作風景を見ていると「陶芸」と呼んでいたものの多様性が見えていなかったことに気づく。

陶器、というだけでも実にいろいろな作り方がある、ということがはっきりと見えてすらいなかったことにも気づく。

作家さんにとっては当たり前だよ、と思うようなことが、知らなければ見えないし、解像度も低いままだ。

イベントに足を運んで、自分の目や耳で感じること。

知らなければ感じられないこともあること。

陶芸に限らず、どんなアートでも、見る人の解像度によってダイレクトに感じられる見え方も変わってくるのだと思う。

できたものが全て、という人ももちろんいるだろう。

けれど、できればどんな風に作品が作られているのか、という部分にも少し思いを馳せてみたい。

同じ作品でも、今の自分と未来の自分が見る作品は違って見えるのだろう。

たまにはイベントに足を運んで、何かを体感しよう。

その時間はきっと、未来の自分の解像度を上げてくれるはずだ。

#007 MEI ガラス造形作家

「作品にはトキメキが必要だと思っています」

その言葉には確かな説得力がある。作品を見るMEIさんの眼差しがきらきらとして見えるからだ。

MEIさんは吹きガラスやステンドグラスの技法を学び、独自のスタイルでガラスの立体作品やジュエリー作品を制作しているアーティストだ。

MEIさんのアトリエに入ると、テーブルの上には小さな色とりどりのガラスのパーツが並んでいた。

ガラス、というと透明でつるつるした手触りのイメージを自然に思い浮かべていたけれど、色とりどりのガラスのパーツはまるで琥珀糖のようにきらめいている。

ピンクやオレンジ、緑、乳白色の水色やうすむらさき、透明なものと、そうでないもの。

よく見ると、ガラスの表面は波打っていたり、ざらざらしていたり、ひとつひとつのテクスチャがパーツの表情をつくっている。

「ジュエリーを作るときは、テンションが上がる色やトキメキを大切にしています。それぞれの配色やテクスチャの組み合わせを考えるのが楽しいです」

元々、ジュエリーデザイナーになりたかったというMEIさん。当初は素材を決めてはいなかったが、大学で吹きガラスを学んだり、ステンドグラス教室に通ったりした経験が今の作風に生かされている。

「ジュエリーについては私がつけたいと思うものや、人が好むものを作ることが多いです」と語るMEIさんは、身につけられるアートなジュエリーを制作・販売する。

窓際には、お父様が作ったというオリジナルの展示台が2つあり、繊細なガラスの立体作品が置かれていた。

「元々、透明なガラスの立体作品を作っていました。ガラス本来の透明さや、テクスチャを見せたいと思っていて。最近は色のある立体作品も作っていて、表情に奥行きが出たので取り組んでよかったなと思っています。

作品全体も見てほしいですが、ガラスの下に映る影の動きや表情にも注目してもらえるとうれしいです」

MEIさんのガラスの立体作品は早朝に開く蓮の花のようにも、羽化したばかりの蝶のようにも、また、水滴をまとった妖精のようにも見える。そこに、ほんの一瞬のきらめきを捉えようとしている切実さを見出したくもなる。

「模様を描くのが好きなので、モノクロのドローイングを描くことから始めます。ガラスを切るときはドローイングをするように手を動かし、線のゆらぎや動きを出しています」

そう言うと、MEIさんは2つのパーツを実際に組み立てて見せてくれた。

「三日月のような形のパーツが多いので、固定できる場所を見つけてハンダ付けをしていきます。立体作品自体の形だけではなく、影も作品の一部なのでバランスを見ながら組み立てします。長いときは1箇所付けるのに30分以上かかることもあるんです」

立体作品の完成形だけが作品なのではなく、ひとつひとつのパーツそれぞれが作品で、大切なもの。それぞれに個をもっている主役だと語るMEIさん。

インタビューでは作品についての思い入れやこれからの活動について話していただきました。

インタビュー

ーー自己紹介をお願いします。

渡邉明衣です。25歳です。

大学ではガラス専攻で吹きガラスやステンドグラスを勉強していました。

ガラスの良さというものはやっぱり不透明なものであったり、透明なものであったり、いろいろあると思うんですけど、その些細な気づきを作品の中で出せたらと思っています。

ガラスは自然光との相性が抜群なので、影も含めて作品になるように意識しています。

ーー作風について教えてください。

(パーツの)形がひとつひとつパキパキした形ではなくて、私が描いたドローイングの線のようになっています。

「ドローイングを立体に起こしたい」と思ったのがきっかけなので、ガラスの硬い感じではなく、(ドローイングの線のような)動きがある柔らかい感じが出せたらいいなと思っています。

ーー代表作について教えてください。

私が結構たくさん作っている唇のモチーフで「クチビルズ」っていうんですけど、その唇はパーツを組み合わせた時に「あ、唇だ」って思ったのがきっかけで。

人間もそうなんですけど、いろんな唇があるので、唇のパーツがあるのがおもしろいなって思ったのがきっかけで、唇をモチーフにした作品はずっと続けています。

ーー発想のもとになっているものはなんですか?

やっぱり自然…空だったり、雲だったり、夕日の沈む時のグラデーションだったり、木漏れ日とか木の蔓とか、水面の漂いとかをモチーフに、自分の中でいいな、ときめいたなって思った物を加工して作品に落としています。

ーー作家を続けてきて大切にしていることは?

作ることが好きとか、ガラスを触ってるのが好きっていうのがやっぱり大事だと思います。

好きだったらちょっとした大変なことでもできると思うので、やっぱり好きという志は大事だなと思っていて。

あと、やっぱり日々の生活の中で平凡に生きること、平凡に暮らすことかなって。

平凡に暮らす中で、やっぱりいろんなアイデアを五感で…目だったり、耳だったり、肌だったり、全部で感じて、それをもうスポンジのように吸収しながら、日々の生活の中で。

たまに刺激があることも加えながら。

そうすることで作家が続けていけるのかなって思っています

ーーこれからの目標を教えてください。

作家はずっと続けていきたいと思ってるんですけど、ガラスの素材というものは塊なんですけど、キラキラとかそういうだけではなく、その空間でも楽しめるように全体を使って作品作りをして、作家を続けていきたいなと思っています。

ーージュエリーを作り始めたきっかけは?

店頭で並んでいるジュエリーもいいなって思うんですけど、自分で全部作れたら最高だなって思ったので(笑)

そしたら色も決められるし、形も決められるし、大きさも決められるし、デザインも決められるし。

もう世界にひとつしかないものが作れるので、自分で作りたいなって思いました。

ーー現在は緑色の作品に凝っていると伺いましたが。

今ブームの好きな色は緑なんですけど、ずーっとサーモンピンクというか、ピンクが好きで。

サンセットみたいな感じのピンクが好きなんですけど、でもやっぱりどの色にも魅力があるのでその時々で変わるんです。

今はやっぱり緑で、新緑とか、自然のもの…なんかそのみずみずしい感じがいいなって思って。

そうですね、多分周期であると思います。全部好きな色なんですけど。そうですね。ありますね。

ーー印象に残っている作品はありますか?

5種類の作品があるんですけど、その5種類の作品の題名が「Eye To Eye」と言って、日本語で「真摯に向き合う」とか「目線を合わす」とかそういう意味なんですけど。

みんなそれぞれ個性があって色が違うけど、でも目線を合わすとか真摯に向き合うとか、そういうみんな仲間なんだよとか、気持ちが心一つになるという意味があります。

今この世の中は、コロナの影響でちょっと人や会話との間に壁が1枚あったりとか、ウクライナの戦争で国や気持ちがみんなバラバラになっちゃったりするんですけど、その時期に作っていたのが「Eye To Eye」という作品です。

私の願いが込められていて、コンセプトもだし、作品自体がやっぱり思いが強いので(見てくださった方にも)生きている作品みたいに思えたらしくて。

なんか見ていると癒されるとか、元気がもらえるとか、ときめきを感じられると言ってもらえたので、私は心を動かすことができたかなと思ってすごく嬉しかったです。

ーー最後にメッセージをお願いします。

私の作品は作品(全体)の塊ではなくて、パーツひとつひとつが作品・主役です。

ガラスの良さを私なりに伝えられたらいいなって思っていますし、(ジュエリーを)身につけた人や私の作品を見た人が癒されたり、優しい気持ちになったり、幸せな気持ちになったりできたらいいなと思っています。

そのためにも、私もこれからも頑張っていこうと思っています。

まとめ

ときめきを原動力に作品を作っていると語ってくれたMEIさん。

そのときめきから生まれた作品を見る眼差しに慈しみの色が見え、心から一つ一つのパーツを作品として大切にしていることが伝わってきました。

また「神は細部に宿る」という言葉を思わせるほど、一つ一つの工程にとても丁寧に取り組んでいる姿がとても印象的でした。

ぜひ実際に繊細なガラスの世界を五感で感じて、見ていただければと思います。

#008 坂田樹 廃材造形作家

敷地内に建っている鉄塔が印象的な平家の建物。

そこは5人で活動する若きアーティストたちのシェアアトリエだ。

今回お会いしたのは、愛知県を拠点に活動する廃材造形作家の坂田樹さん。

坂田さんは身近にあるプラスチック廃材を使って「HANDROID」というロボットなどの造形を制作している。

アトリエに入ると、コンテナに集められた数々のプラスチック廃材が目に飛び込んできた。

プラモデルのパーツのようにも見えるポップな色合いのプラスチックたち。

それが元々はどんな役割のモノだったのか、一目見ただけではわからない。

よくよく見ると、ガチャガチャのカプセルや、壊れてしまった洗濯バサミの半分、人生ゲームの車まである。

元の役割を果たしたモノたちは、坂田さんの手によって、ロボットの頭や、腕や、胴体の一部として、再び息を吹き込まれていく。

大きなものから小さなものまで、作品の大きさはさまざまだ。

組み上がった作品は、一度全体をマットな黒色に下塗りし、アクリル系塗料で金属風の塗装に仕上げていく。

リアリティのある錆の風合いは、丹念に塗料を重ねて表現し、最後に塗料がはがれないようにトップコートで仕上げる。

完成した作品たちには油を差したら動き出しそうなほど、確かな意志をもってそこに「いる」ような気配が息づいていた。

言われなければ、元が身近にあったプラスチック廃材だということに気づく人も少ないだろう。

「素材の中からこれって◯◯みたい、という見立てを考えるのが面白いですね」と坂田さん。

動物やメカが好きだということから、生き物やロボットなどの動くものをモチーフとすることが多いそうだ。

役割を終えて廃材となってしまったものも、見方を変えれば新たな価値が生まれてくる。

大量生産・大量消費が進んできた世の中で、作られてはすぐに不要になっていく「ゴミ」とされるものたちも「何かに使えるかも?」という発想で見つめ、関心を持ってもらいたいと言う。

「展示中に子どもが興味を持ってくれたり、使わなくなった廃材をくれる方がいたりして、関心を持っていただけるのがうれしいです」

子ども向けのワークショップでは、柔軟な子どもならではの見立てが次々と飛び出し、組み上げるのが難しいパーツも試行錯誤しながら作っていくそうだ。

ワークショップ後には参加したお客さんが自宅で作品を作って、写真を送ってくれることも。

坂田さんの「HANDROID」をきっかけに、家にある廃材が別の形で生かせるのでは?と模索する人も増えている。

これまで、自身の身長ほどもある大きな作品も手がけたことがあるが、中高生などの若いお客さんにも気軽に手に取ってもらいやすいよう「キャップメン」というシリーズも手がける。

頭の部分にペットボトルの蓋を使った小さなキャップメンたちは、それぞれ自由に手足を動かし、「頭に花が咲いている人」や「ギターを演奏している人」までいる。

「作品を作るときは親しみを感じてもらえるよう、キャラクター性のあるものや、動くものを作っています」

今年に入ってから100体以上もの作品を制作してきたという坂田さん。自由な発想を大切にしたいという言葉には、子どもの頃の自由なわくわくした気持ちが宿っていた。

インタビュー

ーー自己紹介をお願いします。

坂田樹という実名でやらせていただいてまして、96年生まれの今26歳になっています。

4年前に名古屋芸術大学という美術大学の方を卒業しまして、ちょっと社会人をやっていたんですけど、今はこれ一本でやらせていただいています。

プラスチックの廃材をメインの材料に制作している作品になっていまして、プラスチックの廃材同士を組み合わせてその形の美しさだったりとか、組み合わせの面白さだったりとかを伝えられるような作品を作ることを心がけています。

金属っぽく塗装して仕上げているのは、プラスチックって今は大量生産・大量消費という時代の流れがどうしてもあると思うんですけど、なんかそれをちょっと皮肉ってるわけじゃないですけど、ちょっと押してもらうように、こういう風なテイストの作品を作っております。

ーー素材集めはどのようにされていますか?

基本的には人にもらったりとか自分で収集することがメインなんですけど、そうですね…特にこだわらずというか。

軟質系のプラスチックだとどうしても塗装が乗りにくいみたいなことがあるので、なるべくちょっと硬い身の回りのプラスチックというのを結構心がけて収集していますね。

工業製品的なものも使うことが多くて、それこそ(パソコンの)マウスだったりとかいろんなメーカーさんが出してるんですけど、ひとつひとつその分割のラインだったりとか、丸みの形が違ったりするので、それぞれにあった作品が作れるので結構気に入ってますね。

ーー発想の元になっているものは?

ロボット物の作品がすごい好きで、そういったものが結構そういう作品のベースにある気がしていますね。

それこそ戦隊物だったりとか、エヴァだったりとか。

あとは動物をモチーフにすることも多いんですけど、そういうのも、なんかちっちゃい頃から水族館とかによく行ってたりして。

水棲生物を結構モチーフに選びがちですね。それこそミジンコだったりとか、クジラだったりとか。

結構大学時代も1人で水族館とか行くことが多くて。我ながらちょっと寂しいなと思うんですけど(笑)

アクアトト岐阜という家から近くの水族館があったんですけど、あそことかを年パス持って1人でよく行ってました。

ーー代表作のご紹介をお願いします。

「キャップメン」というシリーズで、ペットボトルのキャップを使ったシリーズになっています。

どうしても自分の作品ってパーツがたくさん増えて大きさが大きくなってくるとそれなりに…お値段するものになっちゃうんですけど、作品を見て「うわーすっごい好きな作風なんだけど、ごめんなさい、買えないんです」と言っていただけるちょっと若い方とかも結構いらっしゃったので、それだったらそういう方でも手に入れられるような、ちょっと価格帯を落とした可愛い作品を作ろうかなと思って。

ちょうど去年の12月ぐらいから作り始めました。

頭はペットボトルのキャップで、胴体は化粧水とかを入れるようなアトマイザーという容器を使っているというひとつのシリーズです。

これがもう200体くらいですかね…ずっと作っているシリーズになっています。

これはちょっと傘みたいなイメージで、ガチャガチャの空き容器を使ったシリーズになっています。

こちらは最近作った作品になっていまして、なんか久しぶりにモチーフ云々じゃなくてメカメカしいものを作りたいなと思って作った作品になります。

顔のところ、実家で使ってたビデオカメラですね、ハンディの。すごく小さい…確か懸賞か何かで当たったのかな。

子供の頃使ってたんですけど、まあどうしても5年、6年とか結構長いこと使っていて壊れちゃって。

それで、ハンディカメラを捨てることになったのでもらってきたんですけど、それのレンズの部分をそのまま使っていたりとか。

素材にも思い入れがあるし、結構お気に入りの作品になっていますね。

ーー廃材作品をつくり始めたきっかけは?

大学のデスクに何か物を置きたいなと思ってて、自分の身の回りにあるものを組み合わせて作った作品を自己満足で飾っていたんですけど、それを大学の友達が「これめちゃめちゃかっこいいじゃん!ちょっと今後も作っていってよ」と言って作り始めたのがその作品を作り始めたきっかけです。

それをずっと作っていく中で、自分の作品を見た人から「これ廃材メインでやっていたら結構今の時代にも即してるし、実際廃材も一部使っているし、いいんじゃないの?」みたいなことを言われて…なのでスタートは廃材メインではなかったんですけど、途中からその廃材をメインの材料にした作品というのを作り始めているのがきっかけですね。

ーー廃材のみだと、欲しいパーツが見つからないこともありますよね?

それはすごくありますね。

どうしてもこういう形が作りたいのにぴったりくる素材がない、みたいなことはどうしてもあって。

なので、基本的には廃材ありきで「なんかこれはあれに見立てられそうだな」みたいな感じでスタートしていくんですけど。

例えば、何かの動物の頭のパーツに見えるからといってスタートしても、胴体のパーツがないじゃん!みたいな感じのときがどうしてもあって。

途中でそのコンセプトを捻じ曲げざるを得ないというか、モチーフを変えざるを得ない、みたいなことはどうしても発生しちゃいますね。

クジラを作ろうとしたんですけど、途中でアルマジロになりました、とか(笑)

最後の最後でガラッと変わったりとか、色をつけて印象が変わったりとかもたまにあるので、タイトルは最後に英和辞典を必死に見ながら「これ合ってるよね」と思いながら付けてますね(笑)

なんか「キャラクター性があったほうが作品に対しても親しみが持てるからいい」みたいなのが(自分の中に)あって。

あと、実際に自分が無機質なものをあんまり好んでないのかもしれないですね。

無意識的な部分で、もう役目を果たして使われなくなったものにもう一度命を吹き込むじゃないですけど、そういった「意味を持たせてあげる」という感じのコンセプトでやっていますね。

ーーアートを広めていくために大切なことは?

いろんな人の身の回りにある廃材・材料を使って制作していくというのが、アートを広めていく中で結構大切になるかなというものになりますね。

絵画とか彫刻とかになってくると、どうしても一般の人からすると少しハードルが高いものになると思うんですけど、それこそいつも自分が持っているコップが作品になっているとか、いつも捨てちゃうあの容器が作品になっているとかだと、アートの距離とかも近くなってくると思うので。

それがちょっとでも架け橋になればというか、ちょっと大切にしていきたい部分ではあります。

ーーアーティストを目指す方にメッセージをお願いします。

多分若いうちは…若いうちはというか、自分も若いんで今頑張っているんですけど(笑)

展示の機会だったりとか、公募展だったりとか、そういったものには積極的に参加していったほうがいいのかなと思います。

いろんな意見がありますけどね。

「敷居が低いところとかにはあんまり出しすぎないほうがいい」みたいな意見もあるんですけど、自分はそういうのはもう一旦積極的に出していったほうがいいんじゃないかと思う派です。

今の時代はSNSもかなり大事ですね。

SNSを見て、展示を見に来てくださった方とかが多分ほとんどですね。

あと現地で見てもらえるというのも必ずあるんですけど、インターネットで見てもらえるのと、現地で見てもらえるのと、本当同じくらいの重要度かなと思うので…SNSも頑張ります(笑)

ーー最後に一言お願い致します。

「大量生産・大量消費」という今のこの現状をちょっとでもなんか考えるきっかけになればいいかなというのも作品を作っているコンセプトの中にあります。

自分の作品を見た人が、物を捨てるときに一瞬でも「もしかしたら何かに使えるかもな」と考えられるきっかけになればいいかなと思って作っていますね。

今後の活動予定

<これからのつくりびと>
名古屋三越栄店 6階
2023/1/18(水)〜24(火)

<グループ展 hiroimono>
2023/3/10(金)〜19(日)

まとめ

坂田さんのお話を伺いながら、子供の頃はもっと柔軟に身近なもので工作を楽しんでいたことを思い出した。

「アート」というとなんとなく難しく、高尚で敷居が高いものだ、という固定概念を抱いてしまう人もいるけれど、身近な素材の中に面白さを見出して、見立ててみたり、作ってみたりしようとする行為そのものが既にアートなのかもしれない。そういう意味では、アートは今よりもっとわたしたちの近くにあるのかもしれない。

#006 山本あき 画家

画家の山本あきさんのアトリエに入ると春の芽吹きを思わせるような色とりどりの色彩が目に飛び込んできた。

アトリエの壁には大きな正方形の作品が2枚。

クリーム色のキャンバスに描かれた色鮮やかな鹿たちが、静かな眼差しをこちら側に向けている。

憂いを帯びたような眼差し。

けれども、不思議な懐かしさと温もりを感じる。

やわらかな温かみのあるキャンバスについて訊ねると「自分で漉いた和紙をキャンバスに貼っているんですよ」と山本さん。

植物の繊維から作られる和紙は自然のもつ温かさがあり、その風合いと、鮮やかな色彩のコントラストに目が惹きつけられる。

命を描くことをテーマに作品を制作している山本さんは、キャンバスにも自然界にある植物から生まれた和紙を貼り、その中に生きている動物たちを描いている。

凛とした佇まいながら、穏やかな口調で山本さんは語ってくれた。

「子供が生まれてから、ドラマとかの小さな子のかわいそうなシーンが苦手になったんです。それもあって、今描いているウサギの作品は愛されていることを信じているウサギにしようと思って」

朱色やピンクなど、暖色で彩られたウサギたちは、純粋無垢な瞳でわたしたちを見つめている。

描かれた動物というより、動物たちは自ずから語りかけ、歌い、笑い、生き生きとそこに存在しているようだ。

「命とは、流れている時間でもあると思っています」と山本さんは語る。

静かで落ち着いた声色の中にも、いのちあるものへの愛情や尊敬、情熱が滲む。

ーーいま、この一瞬を生きている命の時間を描きたい。

絵が生きものそのものであるように。

最初にコンセプトを固めず、手が動くままに感覚的にエスキース(下絵)を作り、絵と会話しながらどんな作品にするか決まっていくのだそう。

予定されたものではなく、生きものと対話し、動かしながら制作していく。

そうして生まれた命あるものたちは、まるでずっと前からそこに存在していたかのように、私たちと同じ時間をいまも生き続けている。

インタビュー

ーー自己紹介をお願いします。

山本あきです。

自分で漉いた手漉き和紙にアクリル絵の具を使って絵を描いています。

生きているとはどういうことかというのを共通のテーマにして「命の気配のある絵画」を制作しています。

ーー紹介していただいた作品について教えてください。

今回のうさぎの作品は、「幸せで、受ける愛情も当たり前に思っている。それに対して何にも不思議だなって思っていない」みたいなうさぎを描きたいなと思って描きました。

私の子供が1歳9ヶ月なんですが、その子が生まれてから子供が大人の勝手で寂しい思いをしたりですとか、悲しい思いをしたりというのが、ドラマとか映画とかでも見れなくなってしまって。

そんな大したことは全然私にはできないんですけど、みんなの子供が幸せに愛情いっぱいに育ったらいいなという思いがあって、それを今回のテーマにうさぎの作品を描きました。 

ーー代表作について教えてください。

flowという作品です。

こちらにちらっと映っているかなと思いますが、大地とか水とか風とか植物とか生き物とか、ながーい年月の流れの中で何度も生まれたりとか、その後死んで、また生まれ変わったりとかまた別のものに生まれたりとか…そうやってずーっと繋がっていくもの、ずっと繋がっていくけれどそこにあるものを描きました。

ーー絵の中の空間にはどんな意味がありますか?

これ(絵の中の空間)は、この作品を描いたときに「欠けてる」とか「足りない」というのが結構大きいテーマになっていて。

なんて言う本だったかな…「僕のかけらを探して」だったかな。子供の頃にすごく好きだった絵本があって。

そこから発想を得て「足りない」というのは響きがネガティブな感じに聞こえるけど「足りないからこそ頑張れる」とか「足りないからこそ支えられる」とか、足りないというのが大事なことだなと思って、はっきりわかるようにこういう風に描いています。

だから、丸だけじゃなくてこういうところを塗っていないのも「未完成」じゃないですけど、もちろん(作品として)完成はしてるんですけど「足りない」というか「完全に完成していない」という状態が、リアルだなと思って空いています。

ーー対になった作品にはそれぞれどんな意味がありますか?

(同じ構図の作品が)2つあるじゃないですか。こっち(左の作品)は自分の中で「たまゆら」と呼んでいます。

たまゆらって日本語で「勾玉が触れ合ったときに鳴る音」という意味で、本当に一瞬というような意味なんですけど。

生きていることって、命があるってことで…。「命がある」ってなんだろうと考えたときに「時間」なんじゃないかなと思ったんですよね。

それで、その一瞬をなんとか描きとめたいなと思ってこの「たまゆら」というのを作ったんですよね。

あとは何て言うんですかね…いきものを表現するというか(絵が)いきものになって欲しいんですよね。

だから、和紙の素材があって、絵の具の素材があって、その素材自体が見えてくるようにこっち(たまゆら)は描いていて。

もうひとつの方はすごくぺたっと塗ってあるんですけど、これは色を見せたいというか…私が色のことがすごく好きなんです。

フォーヴィスムって昔の絵画の運動というか、絵画の流れがあるんですけど、その人たちは色で何かを伝えるというのを(していました)。

結構、私の中では(色は)大事なことで、伝えるときにぺたっと、ぱちっと見える方がいいかなと思ってこちらはそういう風に描いています。

ーー作品のテーマはどの段階で決まりますか?

まずは小さい下書き(エスキース)で下図を作っていくんですけど、そのときは何かを伝えたいと思って描いているわけではなくて、本当に手が動くまま描いていて。

自分の中の感覚でこれが正解だと思うものをある程度小さいもので作って、あとは写真とか動画とか見ながら。

細かいところの形がわからないので、自分で取材してきた写真とかもたくさんあって。

描いてる間に、この子がこっちを向いているというのは「私がこないだ考えていたあれを表現しているんだろうな」とか。

絵と会話をしながら「これはこういう意味で、こういうことが言いたかったんだ」って描いている間にテーマとかコンセプトが固まっていくことが結構多いです。

基本的には下書きを作るまでの間になんとなくコンセプトが固まっていくという感じですね。

ーー作家を続けていくコツを教えてください。

私が一番最初から気をつけていることは「状況を整えておくこと」かなと思っています。

絵を描くスペースがあって、描く時間があって、発表する場所があって、応援してくださる方がいらっしゃる。

ここを整えておかないと、例えば描く場所がなければやろうという気持ちにならない、みたいなことがあるなと思っていますね。

あとは、子供が生まれてからやれることがすごく少なくなって。

人生でやりたいことは、まずは家族との時間、次は絵。それでいっぱいなんですよね。だから絵が仕事になっていれば、作家を続けていくことができるなって。ちょっと現実的ですけどそう思っています。

ーーアートを広めていくには何が必要だと思いますか?

作家活動をしながら中学校で非常勤の講師をすごく長い間していました。

そのときに美術史の小話みたいなのを毎時間、授業の最初に5分か10分くらいするようにしていたんですよ。

そうすると生徒はすごく面白がってくれて。

美術の授業って絵を描くだけかなと思っていた子が「絵を描くのは得意じゃないけど、なんかそういうの面白いかもしれない」みたいな感じで、あいちトリエンナーレとか(現在の国際芸術祭あいち2022)に子供だけで遊びに行ってくれたりとか、美術館に行ってくれたりとか、そういうことがあって。

だからそういう地道な、子供の頃からの(アートが)近くにあるとかそういう感じが大事だなと思っていて。

そのためにどうしたらいいかと言うと、アートをやっている側の人がもっとこう、アートを面白いもんだなと思って、それをまた、いろんなところで喋ったりとかしていく。

だから、アートをやっている大人がアートをもっと楽しむというのが最初で、そこから先入観のあまりない人たちとかにちょっとずつ広まっていくのがいいんじゃないかなって私は思っています。

まとめ

非常勤講師のご経験がある山本さんは、絵のことやご自身についてのお話がわかりやすく、限られた時間の中で濃密なお話を伺うことができました。

山本さんの落ち着いた話し方とまなざしから、いきものへの慈しみと愛情がまっすぐに伝わってくるとともに、色とりどりのいきものたちの世界をもっと見てみたいと感じました。

来年には個展も開催予定とのことなので、ご興味のある方はぜひご覧ください!

今後の活動予定

〈ギャラリーマルキーズ〉

個展

2023年 2/8(水)〜19(日)
月火休廊
12:00〜17:30
最終日16:00終了

https://www.marquise.co.jp/

〈豊田画廊〉

2022年 12/14(水)~12/29(木)
火曜定休
「歳末絵画蔵出し市
-同時開催-吉祥うさぎ展」

2023年 1/4(水)~1/9(月)
「新春絵画蔵出し市
-同時開催-吉祥うさぎ展」

https://toyotagarou.jp/

〈大阪高島屋、岡南ギャラリー〉
12月ごろ、干支のグループ展

〈上野松坂屋〉
1月25日〜31日

※についての詳細は山本あきさんのSNSで詳細が分かり次第告知いたします。

はじめて絵を買った六月のこと

家にお気に入りの絵を飾れたら素敵だなと思う。

できればインテリアに合わせて、季節に合わせて、気分によって、そんな風に好きな作品を飾ることができたら、きっと心が上向きになることだろう。

けれども、お気に入りの作品と出会ってもなかなか手に入れることは難しい。

飾る場所の問題もあるけれど、数万円、ときには数十万円の作品を購入するには清水の舞台から飛び降りるような決断が必要だ。

アートとお金。

それはアートと生活の問題でもある。

作品を購入する側は、完成した作品とその価格しか知らないことがほとんどだ。

作品を作るためにアーティストが費やしてきた制作時間、貴重な画材、展示場所を貸してくれるギャラリーへのマージン、宣伝にかけた手間や時間。

勉強を積み重ねてきた時間。

その作品を生み出すために身につけてきた技術や感性。

そうした見えない時間やお金の膨大なコストにまで目を向けられる人は少ないように思う。

唯一無二の作品を、無から有を生み出すということは生半可なことではないはずだ。

それでも、目の前の結果しか見えない人にとって、まるでいとも簡単に作品が出来上がっているかのように感じられることもあるらしい。

絵がとても上手く、漫画を描いて収入を得ている友人から聞いたことがある。

「絵が描けるんだって? じゃあ簡単でいいからささっと描いてくれない?」

絵が描けない人から見たら、彼女は何も悩まず「簡単にささっと」絵が描ける人に見えるのだろう。

でも、本当にそうだろうか?

まず、テーマをどうするか考え、必要な資料を集め、構図を考えるだろう。

そして、下書きをして、着色をする。あるいはもっと別の工程があるかもしれない。

他の仕事や日々の生活をしながら、制作に充てる時間を捻出しなければならないはずだ。

それを可能にしているのは、彼女のこれまでの努力にほかならない。

そうして、見えないところで時間と技術を費やした末に、作品が生まれている。

しかし、中には制作費を伝えると「友達なのにお金取るの?」と悪気なく言われてしまうこともあるらしい。

もちろん、依頼者と作家の人間関係で友達価格が成り立つ場合もあるだろうし、何かのお祝いでアーティストが作品をプレゼントするために制作することだってある。

でも、依頼者からの「友達だから」という甘えは、作家側の善意を踏みにじってはいないだろうか?

むしろ「友達だから」こそ、友人の才能と努力をリスペクトすべきではないだろうか?

私はこの話を聞いて、大いに考えさせられた。

絵だけではない。例えば、楽器を演奏することだって、ダンスのパフォーマンスをすることだって、一朝一夕で得られない努力のプロセスを知って、敬意を払い、心を震わせたい。

そのためにも、きちんと適正価格がアーティストに支払われることはもちろん、できれば真摯な感想も伝えられたら良いなと思う。

若いアーティストの方と話していると、作家活動だけで食べていくことはなかなか大変だという話もよく耳にする。

作品に一見高価な値段がついていても、経費やギャラリーへのマージンを差し引くと、作家の手元に残るお金は意外と少ないという話も聞く。

作家活動をしながら、他の仕事を掛け持ちして二足の草鞋で成り立たせている人も少なくない。

そうして作家活動を続けている人もいる一方で、経済的な事情や取り巻く環境の変化によって制作から離れなければならない人もいる。

いつか欲しい、お金が貯まったら買おう。そう思っているうちにアーティストが活動をやめてしまったらそれきり作品は手に入らなくなる。

20代の終わりの頃、或る2枚の絵を買ったことがある。

深い深い海の底のような、マチエールの魅力に溢れた作品だった。

その作家さんは病に侵されていて、もしかしたら最後の個展になるかもしれないと覚悟していた。

作家さんの地元で開かれたその個展には、連日たくさんの知人やお弟子さんたちが訪れ、文字通り飛ぶように作品が売れていく。

個展の最終日、私は思い切って気になっていた2点の絵画を購入した。

私にとっては決して安い買い物ではない。けれども、いま私の手元に置かなければ、二度とこの作品に出会えなくなってしまうような気がしていたから。

その予感は的中し、地元での個展が、彼の生涯最後の展覧会となってしまった。

作品と出会える機会が失われてしまうこともある。そのことを、このときようやく実感した。

目の前の作品と出会えていること、世界にたった一つのその作品がいまここにあることは、まったくの偶然で、限りなく奇跡に近い出会いだ。

できることならば、お金や、飾る場所などの現実的な事情を抜きにして、いいと思ったものを自由に手に入れたいと思う。

たとえ、難しい意味がわからなくても、そばに置いていて心があたたかくなるもの、見ていて心地よさを感じられるもの、なぜだか心が揺り動かされるもの。

もっと身近に、自由にアートを楽しめるようになったらいいなと願う。

当たり前に好きな作品を買い、飾るという文化的な土壌が根ざしていたら、アートのまわりの経済ももう少し回り始めるだろう。

買う側の経済的な事情もあるけれど、生活必需品を買うためだけではなく、心がゆたかになるようなお金の使いかただってもっと自由に選べるようになればいい。

そして、本当に心から欲しいと願う作品を、適正な価格で購入でき、買う側も作る側もゆるやかに永く持続していけるような関係性でありたいと思う。

#003 三門祐輝 和太鼓奏者

五感に響く音の波に乗って

よく晴れて気持ちのいい朝、和太鼓奏者でもあり、指導者としても活躍されている三門祐輝さんとの待ち合わせ場所に向かった。

今日お会いする場所は森の中。

やわらかな木漏れ日が地面に水玉模様を作り、小鳥たちが涼やかな声で囀っている。

遊歩道にはどんぐりや松ぼっくりが数えきれないほど転がっていて、一歩森の中に足を踏み入れれば、ここが名古屋の一部であることなど忘れてしまいそうだ。

和のテイストが感じられる上下黒色のシックな衣装に身を包んだ三門さんは、柔和な笑顔が印象的な方だった。

胴体よりも太い和太鼓を軽々と担ぎ、颯爽とした足取りで遊歩道を進んでいく。

「大きく見えるけど、中は空洞なのでそれほど重くないんですよ」

そう言って、ケースから取り出した和太鼓の胴の周りに次々と縄を縛っていく。

縄の縛り方で面を張る強度を調整し、良い音色が響くようにするのだそうだ。

黒くつややかで、人の手の気配が感じられる和太鼓は、堂々とした存在感がかっこいい。

時折、太鼓を叩きながら音の響き具合を確かめていく。

いよいよ演奏のとき。

バチを持って構えた瞬間から、三門さんが纏う空気が変わる。

ドン!と最初の音が打ち鳴らされた瞬間、まっすぐにこちらに向かって響いてくる音に圧倒される。

勇壮で、迫力のある音、音、音。

絶えず打ち鳴らされる和太鼓の音が、広い森のどこかで反響して跳ね返ってくる。

強さを感じるけれど、同時に心地よさもある音の波。

軽やかで、からりと響く音と小鳥の声が森の中で調和する。

目を奪われるものは、音だけではない。

腕を大きく使った動き、くるくると変わる見飽きない表情、森のさざめきも光も、その空間にあるものすべてを身に纏って、音と一体化する。

聴いているこちらの身体の中にまで大きな波がうねり、押し寄せるような感覚。

音の舟に乗せられて、どこまでも漕ぎ出していきたくなるような高揚感があたりに満ちていった。

インタビュー

ーー自己紹介をお願いします。

東海太鼓センターという和太鼓に関連する事業を行っている会社に勤めています。

それから、和楽器を中心とした太鼓集団「ゐづる」というチームを主宰しています、三門と言います。

ーー今日演奏した曲について教えてください。

この曲は演奏の最初の方にやる曲で「じゃんどこ」というタイトルにあまり意味はなくて、

お客さんにまず自分たちの世界観を知ってもらって、そこからその後の演奏につなげていくような曲になります。 

ーー演奏中に意識していることはありますか?

自分の指導する時の理念みたいなものにも関わってくるんですけど、いっぱい楽しんでもらえるというのが一番なので、どれくらい和太鼓のいろいろな顔を見せられるかで、初めて和太鼓に触れる方にも太鼓って楽しいんだなと思ってもらえるように考えています。

かっこいいんだな、も大事なんですけれども、それも含めて楽しいんだなと思ってもらえるかっていうのをすごく意識して演奏しています。

飽きさせないのは意識しますね、すごく意識します。

表情の作り方ひとつとってもそうですし、お客さんがいっぱい入っていると、わーっといる中で、こちらの方も楽しんでるかな、あちらの方も楽しんでるのかなって(気にしますね)。

太鼓というのはドレミファソラシドがあるわけではないので、どのくらい単調になってないかという中で、やっぱり太鼓の音は(刺激が)耳にきたりするので、どのくらい途中で耳休めができるシーンを持てるか意識したりしています。

太鼓をやっている人間がこれ言うの申し訳ないんですけど、ずっと太鼓の大きい音を聞いていると耳が疲れてしまうので(笑)

大きな音も鳴らすっていうのが和太鼓の本質なんですけど、どれくらい小さな音だったりとか繊細な音だったりとか織りまぜながら、時には太鼓じゃない音も入れながら進められるか。

そうすることで、やっぱり大きな太鼓の音って素敵だよね、かっこいいよねって思ってもらえるかはすごく意識しています。

ーー演奏者・指導者として続けていくコツはありますか?

なんでしょうね、「やめない」ですね。止まってもいいので、やめないですね。やめるともう、どうにもならないので。

例えば、自分の能力や周りの環境とか色々あるかもしれないんですけども、それでもやっぱり細々とでもいいので続けるというのがすごく大事なのかなと思います。

どんなに才能があってもやらなかったら人の目には触れられないですし。

もともと東海太鼓センターの専属プロチームの「打歓人(ダカント)」というチームに所属していたんですけれども、そこで活動を行なっていく中で、指導活動をメインにしたいという時に演奏活動がある。

例えば、演奏活動のために教室を休講にしなければいけないというシーンが多々出てきて、それって自分の中でなかなか折り合いがつかない。

だから演奏に出ません、と言ったら当然メンバーにすごく迷惑がかかるわけで、そこらへんのバランスがすごく取れなくなってきて。一度、打歓人を退団させていただいて、指導に専念しようと思ったんですけど、生徒さんに対してやっぱり自信が持てなくなる自分がいて。

生徒さんは一生懸命練習されている。

何かを形にするために頑張って、じゃあ自分はどうなのかと言われた時に、そこに自信が持てなくなってきて。

(自分にとっては)意外と必要ないなと思っていた演奏活動は、自分の中でも大事な軸だったんだなっていうのはすごく気づかされて、今度はバランスを崩さないようにやるといいな、と。

そういう場所として「ゐづる」は自分で立ち上げました。

ーーこれからの目標を教えてください。

東海太鼓センターに勤めているんですけれども、ここがどのくらい大きくなっていくか、会社の理念として和太鼓文化の普及と発展というものを掲げているので、その理念に沿って、東海エリアに文化として和太鼓を発展させていくことをたくさん考えたいなと思いますし、そういう場所もたくさん作っていけるといいなと思っています。

「ゐづる」は指導の部分に直結する活動になっているので、人の目に触れるところで演奏するとか、そういうことで我々の演奏を通して太鼓を楽しんで下さる方々が増えるといいなと思っています。我々としてまだ県外で演奏する機会はないので、そういう形でこれから活動が広がるといいなとは思います。

ーー今後の活動予定を教えてください。

12月11日(日)に名古屋市芸術創造センターで東海太鼓センター創立30周年記念音楽会を開催します。

これまでに東海太鼓センターに携わっていただいた多くの奏者の方々がお祝いとしてゲストで駆けつけてくださいますし、弊社の30周年というものを見てもらえる場ではあるので、ぜひ多くの方に来てみて、体感してもらえるとうれしいなと思うので、ぜひ来てください。よろしくお願いします。

また、来年2月19日(日)には瑞穂文化小劇場で僕が指導しているプロデュースチームの合同ライブを行います。

こちらは5団体で演奏します。インスタなどでも告知をしていますので、見に来ていただけると嬉しいなと思います。

さいごに

今回聴かせていただいた「じゃんどこ」は自然とわくわくしてくるようなリズムが印象的な曲です。

本来は3人で演奏するとのことで、ぜひライブに足を運んで聴いてみたい!と思いました。

三門さんは名古屋市や愛知県を中心に、学校などでも和太鼓の指導を積極的に行っています。

ぜひたくさんの方に、生の音とパフォーマンスを感じて楽しんでいただければと思います。

#004 aei 桑山明美 金工作家

小さな作品に身近な風景を描く

海から少し離れた高台に、かわいらしい三角屋根のアトリエはあった。

入口に足を踏み入れると、部屋の内窓の向こうに高い空と木々が見える。

風が強い秋晴れの日、金工作家のaei 桑山明美さんのアトリエに伺った。

自然光が差し込むギャラリーのガラスケースの中には、真鍮やシルバーで作られた緻密なデザインの装身具たち。その奥に作品を制作するスペースがある。

少し高い位置に広く設けられた窓からは秋の空と木々が見え、アトリエの中はまだ新しい木の香りがする。

風の音に包まれながらやわらかな木漏れ日の中に佇んでいる、とても心地の良い空間。

「外の人工物が見えると集中できないので、ここに座ったときに見える景色にこだわって窓を作ったんですよ」と桑山さんは笑う。

制作スペースには糸のこや刻印、針のように細い金属製の棒、貝殻やドライフラワーが詰まったガラス瓶、新しい銅板、ビーカーなどがあり、さながら木工室や理科室、美術室のような雰囲気だ。

今回は、簪の仕上げと、思い入れのある作品だというバングルの制作工程について見学させてもらった。

一定のリズムで響く、高い金属音。

ミリ単位の細密なデザイン画に合わせて、ひとつひとつ手作業で刻印が打ち込まれていく。

手のひらにすっぽりと収まってしまう小さな金属製の板の中に、少しずつ角度を変えながら細かな紋様が彫り込まれる。

息をするのも憚られるような、集中力と根気を要する時間だ。

明るい室内にカンカンと響く音は、どこか金管楽器のようにも聴こえる。

それぞれのパーツが完成すると、丁寧にヤスリをかけて面取りを施していく。

長く身につけてもらう装身具は、しっかりとバリ取りをして肌触りにもこだわっています、と桑山さん。

形が完成したら、ロウ付けをして、薬品につけて風合いを出す。

仕上げをする際は、ピカピカに磨き上げることもできるが、敢えて風合いを残しているのだそうだ。

「ピカピカに仕上げるのは機械でもできる。でも、手の痕跡を残して、時間の経過で見た目が変化することも踏まえて作っています」と言う。

確かに、真鍮やシルバー、ゴールドでできたイヤリングや指輪、バングルなどを見ていると、それぞれの作品に人の手で作られた痕跡や息遣いが感じられる。

もう一つ、印象的なのが身近な風景を映したという作品に付けられた名前だ。

「風が運んだ香り」「旅の指針」「月になりたかった鳥」など、詩的な世界観に満ち溢れている。

作品を見つめていると、詩や音楽が奏でられているような、そんな心持ちがしてくるのだ。

「こうした素敵なタイトルは、身近な緑や海から着想を得ているのですか?」と尋ねると、意外にも「いろいろとインプットしているのもありますが、ふとした瞬間や、家事をしている時に降りてきたりすることが多いんですよ」とのこと。

丁寧に作られた小さな作品たちの中には、桑山さんの目を通して映し込まれた風景と、叙情的な物語がどこまでも広がっていた。

インタビュー

ーー自己紹介をお願いします。

桑山明美と言います。

愛知県常滑市という街で生まれ育ちました。

常滑市は焼き物の産地で、周りが工芸とかものづくりの街なので、知らないうちに影響を受けてものづくりが好きになったのかなと今になって思います。

美術大学に入って金工を学び、それから卒業と同時に「aei」という屋号で活動を始めました。 

「aei」という屋号は古いギリシャの言葉で「永遠」という意味があります。

私の下の名前が「明美(akemi)」なので母音が「aei」と一緒で、運命的な出会いを感じて「aei」という名前で活動しています。

ーー今日紹介していただいた作品について教えてください。

私は風景を写し取ったような作品を作っています。

このバングルも森の風景を写し取ったような作品で、森で鳥が騒いでいる「森の合唱団」というタイトルです。

糸鋸で透かして形を作った後に、別の刻印を打ちつけて模様を描いて、最終的にバングルの形になります。

このバングルはとても思い入れのある作品で、初めのひとつを作った時は臨月で、真夏でした。

前のアトリエはエアコンもない環境で、37度の猛暑の日に汗がぼたぼた落ちる中で作っていたんです。

その環境もあってすごく満足して「よし産むぞ!」と作ったような作品です。

それから子を産んで、3ヶ月のときに初めての個展で発表した作品になります。

今日作った簪(かんざし)は、お客様のリクエストで生まれた作品です。

図案は3タイプあって、この作品はオリーブで、他にミモザとクローバーもあります。

昔から花冠を作るのが好きで「編みかけの花冠」というタイトルをつけています。

でも私、最後まで円にできなくて。編みかけなんですよね、いつも(笑)

そういうことを思い出しながら作った作品になります。

ーーインスピレーションを受けているものや、作風について教えてください。

普段の日常の片隅の些細な出来事なんですけど、画家が風景描いたり、カメラマンが写真を撮ったりするっていうのと一緒ですね。

私も目で見た景色を小さい彫刻として作っているだけで、特別なことは何もないけど「素敵な景色とか物を所有したい」という思いから形にしています。

ーー今の活動の目標について教えてください。

目標はまずは続けることです。

何かこれをやりたいっていう大きな目標はないんですけど、この職業は定年退職がないのがいいなと思っています。

ずっと多分、私はおばあちゃんになっても手が動く限り作り続けてると思います。

ーー作家を続けていくコツはありますか?

自分のペースでいいと思うんですよね。

私は作らないと不安になるから作っているだけで、作りたくなければ休憩してもいいし、違うことをやってもいいと思います。

多分、作りたい人はまた作りたくなると思うんですよ。本当に自由でいいと思う。

お金がないと心が貧しくなるとは思うんですよね。

(制作費や生活費など)必要最低限の生活が成り立つ分は補って、自分の好きなこともやる。

生活って人それぞれなので、バランスもあると思うんですけど。

周りに頼ることはすごく大事で、口に出すことは大切にしてきました。

「作家活動をやってるよ」とか、いろんな場所で仕事がもらえるように自己紹介していく。たまに恥ずかしいこともありますけど(笑)

自分から前へ前へ。仕事は待たずに拾いにいくっていう精神は必要ですよね。

ーーaeiさんの作品はどこで観られますか?

10月29日(土)30日(日)に、千葉県の市川市で「工房からの風」というイベントに出させてもらいます。頑張ってきます。

達成感が次の作品を作るエネルギー

ご自身のことを「回遊魚のようにいつも動き回っています」とおっしゃっていた桑山さん。

明るさとしなやかさ、そしてパワフルなバイタリティーが作家活動を続ける源にあるのだと感じました。

今後は作品を通じて、全国を旅したいとの目標もあるとのこと。

来年には、個展で大人向けと子供向けのワークショップも予定しているそうです。

ぜひ機会があれば実物の作品を手に取って見てみてくださいね。