#007 MEI ガラス造形作家
2023.01.31
2023.01.31
「作品にはトキメキが必要だと思っています」
その言葉には確かな説得力がある。作品を見るMEIさんの眼差しがきらきらとして見えるからだ。
MEIさんは吹きガラスやステンドグラスの技法を学び、独自のスタイルでガラスの立体作品やジュエリー作品を制作しているアーティストだ。
MEIさんのアトリエに入ると、テーブルの上には小さな色とりどりのガラスのパーツが並んでいた。
ガラス、というと透明でつるつるした手触りのイメージを自然に思い浮かべていたけれど、色とりどりのガラスのパーツはまるで琥珀糖のようにきらめいている。
ピンクやオレンジ、緑、乳白色の水色やうすむらさき、透明なものと、そうでないもの。
よく見ると、ガラスの表面は波打っていたり、ざらざらしていたり、ひとつひとつのテクスチャがパーツの表情をつくっている。
「ジュエリーを作るときは、テンションが上がる色やトキメキを大切にしています。それぞれの配色やテクスチャの組み合わせを考えるのが楽しいです」
元々、ジュエリーデザイナーになりたかったというMEIさん。当初は素材を決めてはいなかったが、大学で吹きガラスを学んだり、ステンドグラス教室に通ったりした経験が今の作風に生かされている。
「ジュエリーについては私がつけたいと思うものや、人が好むものを作ることが多いです」と語るMEIさんは、身につけられるアートなジュエリーを制作・販売する。
窓際には、お父様が作ったというオリジナルの展示台が2つあり、繊細なガラスの立体作品が置かれていた。
「元々、透明なガラスの立体作品を作っていました。ガラス本来の透明さや、テクスチャを見せたいと思っていて。最近は色のある立体作品も作っていて、表情に奥行きが出たので取り組んでよかったなと思っています。
作品全体も見てほしいですが、ガラスの下に映る影の動きや表情にも注目してもらえるとうれしいです」
MEIさんのガラスの立体作品は早朝に開く蓮の花のようにも、羽化したばかりの蝶のようにも、また、水滴をまとった妖精のようにも見える。そこに、ほんの一瞬のきらめきを捉えようとしている切実さを見出したくもなる。
「模様を描くのが好きなので、モノクロのドローイングを描くことから始めます。ガラスを切るときはドローイングをするように手を動かし、線のゆらぎや動きを出しています」
そう言うと、MEIさんは2つのパーツを実際に組み立てて見せてくれた。
「三日月のような形のパーツが多いので、固定できる場所を見つけてハンダ付けをしていきます。立体作品自体の形だけではなく、影も作品の一部なのでバランスを見ながら組み立てします。長いときは1箇所付けるのに30分以上かかることもあるんです」
立体作品の完成形だけが作品なのではなく、ひとつひとつのパーツそれぞれが作品で、大切なもの。それぞれに個をもっている主役だと語るMEIさん。
インタビューでは作品についての思い入れやこれからの活動について話していただきました。
渡邉明衣です。25歳です。
大学ではガラス専攻で吹きガラスやステンドグラスを勉強していました。
ガラスの良さというものはやっぱり不透明なものであったり、透明なものであったり、いろいろあると思うんですけど、その些細な気づきを作品の中で出せたらと思っています。
ガラスは自然光との相性が抜群なので、影も含めて作品になるように意識しています。
(パーツの)形がひとつひとつパキパキした形ではなくて、私が描いたドローイングの線のようになっています。
「ドローイングを立体に起こしたい」と思ったのがきっかけなので、ガラスの硬い感じではなく、(ドローイングの線のような)動きがある柔らかい感じが出せたらいいなと思っています。
私が結構たくさん作っている唇のモチーフで「クチビルズ」っていうんですけど、その唇はパーツを組み合わせた時に「あ、唇だ」って思ったのがきっかけで。
人間もそうなんですけど、いろんな唇があるので、唇のパーツがあるのがおもしろいなって思ったのがきっかけで、唇をモチーフにした作品はずっと続けています。
やっぱり自然…空だったり、雲だったり、夕日の沈む時のグラデーションだったり、木漏れ日とか木の蔓とか、水面の漂いとかをモチーフに、自分の中でいいな、ときめいたなって思った物を加工して作品に落としています。
作ることが好きとか、ガラスを触ってるのが好きっていうのがやっぱり大事だと思います。
好きだったらちょっとした大変なことでもできると思うので、やっぱり好きという志は大事だなと思っていて。
あと、やっぱり日々の生活の中で平凡に生きること、平凡に暮らすことかなって。
平凡に暮らす中で、やっぱりいろんなアイデアを五感で…目だったり、耳だったり、肌だったり、全部で感じて、それをもうスポンジのように吸収しながら、日々の生活の中で。
たまに刺激があることも加えながら。
そうすることで作家が続けていけるのかなって思っています
作家はずっと続けていきたいと思ってるんですけど、ガラスの素材というものは塊なんですけど、キラキラとかそういうだけではなく、その空間でも楽しめるように全体を使って作品作りをして、作家を続けていきたいなと思っています。
店頭で並んでいるジュエリーもいいなって思うんですけど、自分で全部作れたら最高だなって思ったので(笑)
そしたら色も決められるし、形も決められるし、大きさも決められるし、デザインも決められるし。
もう世界にひとつしかないものが作れるので、自分で作りたいなって思いました。
今ブームの好きな色は緑なんですけど、ずーっとサーモンピンクというか、ピンクが好きで。
サンセットみたいな感じのピンクが好きなんですけど、でもやっぱりどの色にも魅力があるのでその時々で変わるんです。
今はやっぱり緑で、新緑とか、自然のもの…なんかそのみずみずしい感じがいいなって思って。
そうですね、多分周期であると思います。全部好きな色なんですけど。そうですね。ありますね。
5種類の作品があるんですけど、その5種類の作品の題名が「Eye To Eye」と言って、日本語で「真摯に向き合う」とか「目線を合わす」とかそういう意味なんですけど。
みんなそれぞれ個性があって色が違うけど、でも目線を合わすとか真摯に向き合うとか、そういうみんな仲間なんだよとか、気持ちが心一つになるという意味があります。
今この世の中は、コロナの影響でちょっと人や会話との間に壁が1枚あったりとか、ウクライナの戦争で国や気持ちがみんなバラバラになっちゃったりするんですけど、その時期に作っていたのが「Eye To Eye」という作品です。
私の願いが込められていて、コンセプトもだし、作品自体がやっぱり思いが強いので(見てくださった方にも)生きている作品みたいに思えたらしくて。
なんか見ていると癒されるとか、元気がもらえるとか、ときめきを感じられると言ってもらえたので、私は心を動かすことができたかなと思ってすごく嬉しかったです。
私の作品は作品(全体)の塊ではなくて、パーツひとつひとつが作品・主役です。
ガラスの良さを私なりに伝えられたらいいなって思っていますし、(ジュエリーを)身につけた人や私の作品を見た人が癒されたり、優しい気持ちになったり、幸せな気持ちになったりできたらいいなと思っています。
そのためにも、私もこれからも頑張っていこうと思っています。
ときめきを原動力に作品を作っていると語ってくれたMEIさん。
そのときめきから生まれた作品を見る眼差しに慈しみの色が見え、心から一つ一つのパーツを作品として大切にしていることが伝わってきました。
また「神は細部に宿る」という言葉を思わせるほど、一つ一つの工程にとても丁寧に取り組んでいる姿がとても印象的でした。
ぜひ実際に繊細なガラスの世界を五感で感じて、見ていただければと思います。