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アートにお金を支払うのは、物語の登場人物になりたいからなのかもしれない

2022.12.18

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「何かを買ったとき、なぜそれを選んだのか、理由を考えてみるといいよ」と言われたことがある。

なぜ今朝は、この店で、このドリンクを注文したのか。

だって今日は、期間限定商品の発売日だったから。きっと帰りには売り切れてしまうはず。

なぜあのコンビニで、このビニール傘を買ったのか。

今日雨が降るなんて知らなかった。多少の雨ならいいけれど、このあとは取材に伺う予定。さすがに、びしょぬれで行くわけには行かないだろう。せっかくならビニールではない傘がほしかった。

なぜ本屋に立ち寄って、この雑誌を買ったのか。

これは、毎月発売日を楽しみにしている唯一のもの。毎月の特集が関心事ばかりでどれも興味深く読んでしまう。その上、今月の巻頭インタビューは好きな俳優さんなのだ。これを買わない選択肢はないだろう。

何となく買っているものにも、多かれ少なかれ、自分なりの理由がある。

日常的な買い物だってこれなのだ。アートを買う場合には、もう少し特別で、強い理由がきっとある。

わたしの場合は、「そのアーティストの物語の登場人物になりたいから」かもしれない。

CDというアートをわたしが購入した理由

最近どんなアートを購入した? 自分に問うと直近のものとして浮かんでくるのは、CDばかりだった。

舞台やコンサートが好きなわたしは、コロナ禍を経験して一層、エンターテインメントは生が一番だと思ってしまう。

最近はもっぱら、応援しているアーティスト・杉本琢弥くんの所属するダンス&ボーカルグループのライブ会場に足を運ぶ。そして、先日発売したメジャーデビューシングルCDを購入し、持ち帰る。

ステージで見せるパフォーマンスの裏には、公演時間の何倍もの準備時間がある。

テーマや会場に合わせたセットリストを考え、音源を準備して、演出を考える。

当日のための準備はもちろんだが、ベースとして、ステージ上で披露できるだけの歌やダンスの技術を身に付けておかなければならない。客席を惹きつけるパフォーマンスができるようになるまでには、長い時間がかかる。インスタントなものには心は動かされないのだ。

その中の1曲として披露されるメジャーデビュー曲は、彼自身が作詞作曲を手掛けたものだ。曲をつくって、そこに歌詞を乗せる。それをグループで披露する。「この曲、僕がつくりました」と口にすることは簡単だけれど、どの作業一つとってもわたしにはできそうにないものばかり。

収録した3曲を、彼が音楽の道を志してから注いできた10年分の時間と、費やしてきた努力と、かけてきた想いを一緒に閉じ込めたCDが、1枚1,200円で手に入る。こんなの今のわたしには、買わない理由なんて見つけられなかった。

アーティストの描く夢を一緒に見るわくわく感

インタビューさせていただく方には、最後に、今後の目標や展望をお伺いすることが結構ある。この質問には想像もしていない答えが返ってくることも多いので、毎回わくわくしてしまう。

本メディアではこれまで2名のアーティストさんの取材を担当し、お二人の描いている今後についても伺った。

テクスチャーアーティストの徳島空さんは、離島をアートで町おこしするという。お父様のご出身で、鹿児島県にある喜界島。現在は住んでいる人も減っているという場所を、アートの島として盛り上げられたらという夢を語ってくださった。しかも、10年以内に実現します! という期限付き。徳山さんのつくる和要素のある作品はもちろん、他のアーティストの方と掛け合わせた作品作りやイベントもいろいろできそうだと、目の前で徳山さんの“やりたい”が膨らんでいくのを目の当たりにした。

水墨画家の長嶋芙蓉さんは、「水墨画への間口になりたい」と繰り返した。難しくないよ、楽しいよ、とも。水墨画に触れてほしい思いで気軽に参加できるワークショップなども行っている中で、「いつか学校をつくりたいと思っているんです」という言葉が滑り出た。例えば、と話してくださった、全員が白い服を黒く染めていくアートTシャツ作りのイベントを、夏の暑い日に汚れることも濡れることも気にせずにできたら。少し想像しただけで子どもたちのはしゃぐ声が聞こえてくる。どれだけ笑える時間になるだろう。

子どもの頃から墨を使った作品づくりに自然と手が伸ばせる環境があれば、日本に心の豊かさが増す気がする。

今はまだ彼らの頭の中にしかないけれど、描いている未来が実現したら、どんなに楽しいだろうと思ってしまう。そして自然と、実現するときにはその場にわたしも一緒にいたいなと願ってしまうのだ。

アート作品の購入は、アーティストの描く未来に登場人物になれる可能性を買っているのかもしれない

「お金は、コミュニケーションツールだよ」と聞いたことがある。

モノがほしくて買う時代は通り過ぎ、体験できるコトを求めてお金を使うことに価値を感じる人が増えている。

わたしがアートを買うとき、作品にお金を支払う理由のひとつは、その作品ができるまでの感謝の気持ち。これまで諦めずに活動し続けてくれて、素敵な作品と出会う機会をつくってくれて、ありがとう。

それ以上に強い理由は、彼らの描く未来の物語の、登場人物になりたいからなのかもしれない。

応援したいアーティストの手掛けた作品を、購入する。手に入れたアート作品は、彼らが実現しようとしている未来に参加できるチケットになる。“いつか”が叶う時、外から眺めているだけの傍観者でいるなんて寂しい。好きで応援するのなら、未来の物語に登場できる可能性を購入しておきたいと思うのだ。