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#008 坂田樹 廃材造形作家

2023.01.24

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敷地内に建っている鉄塔が印象的な平家の建物。

そこは5人で活動する若きアーティストたちのシェアアトリエだ。

今回お会いしたのは、愛知県を拠点に活動する廃材造形作家の坂田樹さん。

坂田さんは身近にあるプラスチック廃材を使って「HANDROID」というロボットなどの造形を制作している。

アトリエに入ると、コンテナに集められた数々のプラスチック廃材が目に飛び込んできた。

プラモデルのパーツのようにも見えるポップな色合いのプラスチックたち。

それが元々はどんな役割のモノだったのか、一目見ただけではわからない。

よくよく見ると、ガチャガチャのカプセルや、壊れてしまった洗濯バサミの半分、人生ゲームの車まである。

元の役割を果たしたモノたちは、坂田さんの手によって、ロボットの頭や、腕や、胴体の一部として、再び息を吹き込まれていく。

大きなものから小さなものまで、作品の大きさはさまざまだ。

組み上がった作品は、一度全体をマットな黒色に下塗りし、アクリル系塗料で金属風の塗装に仕上げていく。

リアリティのある錆の風合いは、丹念に塗料を重ねて表現し、最後に塗料がはがれないようにトップコートで仕上げる。

完成した作品たちには油を差したら動き出しそうなほど、確かな意志をもってそこに「いる」ような気配が息づいていた。

言われなければ、元が身近にあったプラスチック廃材だということに気づく人も少ないだろう。

「素材の中からこれって◯◯みたい、という見立てを考えるのが面白いですね」と坂田さん。

動物やメカが好きだということから、生き物やロボットなどの動くものをモチーフとすることが多いそうだ。

役割を終えて廃材となってしまったものも、見方を変えれば新たな価値が生まれてくる。

大量生産・大量消費が進んできた世の中で、作られてはすぐに不要になっていく「ゴミ」とされるものたちも「何かに使えるかも?」という発想で見つめ、関心を持ってもらいたいと言う。

「展示中に子どもが興味を持ってくれたり、使わなくなった廃材をくれる方がいたりして、関心を持っていただけるのがうれしいです」

子ども向けのワークショップでは、柔軟な子どもならではの見立てが次々と飛び出し、組み上げるのが難しいパーツも試行錯誤しながら作っていくそうだ。

ワークショップ後には参加したお客さんが自宅で作品を作って、写真を送ってくれることも。

坂田さんの「HANDROID」をきっかけに、家にある廃材が別の形で生かせるのでは?と模索する人も増えている。

これまで、自身の身長ほどもある大きな作品も手がけたことがあるが、中高生などの若いお客さんにも気軽に手に取ってもらいやすいよう「キャップメン」というシリーズも手がける。

頭の部分にペットボトルの蓋を使った小さなキャップメンたちは、それぞれ自由に手足を動かし、「頭に花が咲いている人」や「ギターを演奏している人」までいる。

「作品を作るときは親しみを感じてもらえるよう、キャラクター性のあるものや、動くものを作っています」

今年に入ってから100体以上もの作品を制作してきたという坂田さん。自由な発想を大切にしたいという言葉には、子どもの頃の自由なわくわくした気持ちが宿っていた。

インタビュー

ーー自己紹介をお願いします。

坂田樹という実名でやらせていただいてまして、96年生まれの今26歳になっています。

4年前に名古屋芸術大学という美術大学の方を卒業しまして、ちょっと社会人をやっていたんですけど、今はこれ一本でやらせていただいています。

プラスチックの廃材をメインの材料に制作している作品になっていまして、プラスチックの廃材同士を組み合わせてその形の美しさだったりとか、組み合わせの面白さだったりとかを伝えられるような作品を作ることを心がけています。

金属っぽく塗装して仕上げているのは、プラスチックって今は大量生産・大量消費という時代の流れがどうしてもあると思うんですけど、なんかそれをちょっと皮肉ってるわけじゃないですけど、ちょっと押してもらうように、こういう風なテイストの作品を作っております。

ーー素材集めはどのようにされていますか?

基本的には人にもらったりとか自分で収集することがメインなんですけど、そうですね…特にこだわらずというか。

軟質系のプラスチックだとどうしても塗装が乗りにくいみたいなことがあるので、なるべくちょっと硬い身の回りのプラスチックというのを結構心がけて収集していますね。

工業製品的なものも使うことが多くて、それこそ(パソコンの)マウスだったりとかいろんなメーカーさんが出してるんですけど、ひとつひとつその分割のラインだったりとか、丸みの形が違ったりするので、それぞれにあった作品が作れるので結構気に入ってますね。

ーー発想の元になっているものは?

ロボット物の作品がすごい好きで、そういったものが結構そういう作品のベースにある気がしていますね。

それこそ戦隊物だったりとか、エヴァだったりとか。

あとは動物をモチーフにすることも多いんですけど、そういうのも、なんかちっちゃい頃から水族館とかによく行ってたりして。

水棲生物を結構モチーフに選びがちですね。それこそミジンコだったりとか、クジラだったりとか。

結構大学時代も1人で水族館とか行くことが多くて。我ながらちょっと寂しいなと思うんですけど(笑)

アクアトト岐阜という家から近くの水族館があったんですけど、あそことかを年パス持って1人でよく行ってました。

ーー代表作のご紹介をお願いします。

「キャップメン」というシリーズで、ペットボトルのキャップを使ったシリーズになっています。

どうしても自分の作品ってパーツがたくさん増えて大きさが大きくなってくるとそれなりに…お値段するものになっちゃうんですけど、作品を見て「うわーすっごい好きな作風なんだけど、ごめんなさい、買えないんです」と言っていただけるちょっと若い方とかも結構いらっしゃったので、それだったらそういう方でも手に入れられるような、ちょっと価格帯を落とした可愛い作品を作ろうかなと思って。

ちょうど去年の12月ぐらいから作り始めました。

頭はペットボトルのキャップで、胴体は化粧水とかを入れるようなアトマイザーという容器を使っているというひとつのシリーズです。

これがもう200体くらいですかね…ずっと作っているシリーズになっています。

これはちょっと傘みたいなイメージで、ガチャガチャの空き容器を使ったシリーズになっています。

こちらは最近作った作品になっていまして、なんか久しぶりにモチーフ云々じゃなくてメカメカしいものを作りたいなと思って作った作品になります。

顔のところ、実家で使ってたビデオカメラですね、ハンディの。すごく小さい…確か懸賞か何かで当たったのかな。

子供の頃使ってたんですけど、まあどうしても5年、6年とか結構長いこと使っていて壊れちゃって。

それで、ハンディカメラを捨てることになったのでもらってきたんですけど、それのレンズの部分をそのまま使っていたりとか。

素材にも思い入れがあるし、結構お気に入りの作品になっていますね。

ーー廃材作品をつくり始めたきっかけは?

大学のデスクに何か物を置きたいなと思ってて、自分の身の回りにあるものを組み合わせて作った作品を自己満足で飾っていたんですけど、それを大学の友達が「これめちゃめちゃかっこいいじゃん!ちょっと今後も作っていってよ」と言って作り始めたのがその作品を作り始めたきっかけです。

それをずっと作っていく中で、自分の作品を見た人から「これ廃材メインでやっていたら結構今の時代にも即してるし、実際廃材も一部使っているし、いいんじゃないの?」みたいなことを言われて…なのでスタートは廃材メインではなかったんですけど、途中からその廃材をメインの材料にした作品というのを作り始めているのがきっかけですね。

ーー廃材のみだと、欲しいパーツが見つからないこともありますよね?

それはすごくありますね。

どうしてもこういう形が作りたいのにぴったりくる素材がない、みたいなことはどうしてもあって。

なので、基本的には廃材ありきで「なんかこれはあれに見立てられそうだな」みたいな感じでスタートしていくんですけど。

例えば、何かの動物の頭のパーツに見えるからといってスタートしても、胴体のパーツがないじゃん!みたいな感じのときがどうしてもあって。

途中でそのコンセプトを捻じ曲げざるを得ないというか、モチーフを変えざるを得ない、みたいなことはどうしても発生しちゃいますね。

クジラを作ろうとしたんですけど、途中でアルマジロになりました、とか(笑)

最後の最後でガラッと変わったりとか、色をつけて印象が変わったりとかもたまにあるので、タイトルは最後に英和辞典を必死に見ながら「これ合ってるよね」と思いながら付けてますね(笑)

なんか「キャラクター性があったほうが作品に対しても親しみが持てるからいい」みたいなのが(自分の中に)あって。

あと、実際に自分が無機質なものをあんまり好んでないのかもしれないですね。

無意識的な部分で、もう役目を果たして使われなくなったものにもう一度命を吹き込むじゃないですけど、そういった「意味を持たせてあげる」という感じのコンセプトでやっていますね。

ーーアートを広めていくために大切なことは?

いろんな人の身の回りにある廃材・材料を使って制作していくというのが、アートを広めていく中で結構大切になるかなというものになりますね。

絵画とか彫刻とかになってくると、どうしても一般の人からすると少しハードルが高いものになると思うんですけど、それこそいつも自分が持っているコップが作品になっているとか、いつも捨てちゃうあの容器が作品になっているとかだと、アートの距離とかも近くなってくると思うので。

それがちょっとでも架け橋になればというか、ちょっと大切にしていきたい部分ではあります。

ーーアーティストを目指す方にメッセージをお願いします。

多分若いうちは…若いうちはというか、自分も若いんで今頑張っているんですけど(笑)

展示の機会だったりとか、公募展だったりとか、そういったものには積極的に参加していったほうがいいのかなと思います。

いろんな意見がありますけどね。

「敷居が低いところとかにはあんまり出しすぎないほうがいい」みたいな意見もあるんですけど、自分はそういうのはもう一旦積極的に出していったほうがいいんじゃないかと思う派です。

今の時代はSNSもかなり大事ですね。

SNSを見て、展示を見に来てくださった方とかが多分ほとんどですね。

あと現地で見てもらえるというのも必ずあるんですけど、インターネットで見てもらえるのと、現地で見てもらえるのと、本当同じくらいの重要度かなと思うので…SNSも頑張ります(笑)

ーー最後に一言お願い致します。

「大量生産・大量消費」という今のこの現状をちょっとでもなんか考えるきっかけになればいいかなというのも作品を作っているコンセプトの中にあります。

自分の作品を見た人が、物を捨てるときに一瞬でも「もしかしたら何かに使えるかもな」と考えられるきっかけになればいいかなと思って作っていますね。

今後の活動予定

<これからのつくりびと>
名古屋三越栄店 6階
2023/1/18(水)〜24(火)

<グループ展 hiroimono>
2023/3/10(金)〜19(日)

まとめ

坂田さんのお話を伺いながら、子供の頃はもっと柔軟に身近なもので工作を楽しんでいたことを思い出した。

「アート」というとなんとなく難しく、高尚で敷居が高いものだ、という固定概念を抱いてしまう人もいるけれど、身近な素材の中に面白さを見出して、見立ててみたり、作ってみたりしようとする行為そのものが既にアートなのかもしれない。そういう意味では、アートは今よりもっとわたしたちの近くにあるのかもしれない。