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#002 徳島空 テクスチャーアーティスト

2022.09.22

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足を踏み入れたとたん、さまざまな色・模様の壁に囲まれる。すべての壁が、面ごとに違った特殊塗装が施されている。

手掛けたのは、東京都大田区を中心に塗装業をしているPAINT WORK nanairoの代表・徳島空さん。17歳から建築塗装に携わってきて、7年目にして起業。現在は一般的な建築塗装の仕事の割合が多いというが、今後さらに広めていきたいと考えているのが“特殊塗装”だ。指定の色で均一にムラなく染める壁面塗装に対して、塗料や塗り方の工夫で風合いをもたせるのが特徴。「デザイン性が高く、多くのパターンを生み出せるので建築塗装とアートの間に位置しています」と徳島さんは言う。

取材に訪れた際は、2種類の特殊塗装を実演してくれた。

海面、大理石、石材……塗装でリアリティのある質感を作り出す

まずは、海面の様子を壁面に描く技法・マーベリクス。ベースの上に、U字型をした刷毛で白い塗料をのせていく。U字型を活かし、色味が異なる2種類の白を同時に塗っていくことができる。他では目にしたことのない着色方法だ。全面に白をのせた後で、別の刷毛を手に取る。白い塗料が乾く前に塗料に含まれるを砂のような粒を移動させるイメージで、海面が波立つ様子を表現していく。模様をつくる上でのポイントを尋ねると「色の境目をはっきりさせすぎると人工的になってしまいます。いかに自然に見えるかを意識して作業しています」と手を動かしながら教えてくれた。そうしているうちに、波の起伏する様子が描かれていった。

続いて見せてくれたのは、大理石風の仕上がりとなる技法・ロココ。事前に準備しておいたと取り出した青色の板には、塗料を2度重ね塗りしてあるという。取材時は3度目の重ね塗りを行い、乾き具合を見計らって、仕上げにコテで表面を磨き上げていった。体重を乗せながらさまざまな方向から磨いていくと、徐々に光沢が出てくるのと共に、事前に塗った際の模様が浮き上がってくる。その質感は、正に大理石のよう。塗料を塗った時点でのマットな印象からは想像できない美しい仕上がりだ。

徳島さんが特殊塗装に出会ったのは4年ほど前だという。表現の幅の広さや、仕上がりで与えられる感動の大きさに惹かれて技術を身に付けた。現在SNS等での発信活動も積極的に行っている彼が、どのような想いで特殊塗装を行っているのか。特殊塗装の魅力や、描いている展望とあわせて話を聴いた。

ーー始めに、自己紹介をお願いします。

徳島さん:徳島空と申します。現在25歳で、普段は建築塗装の仕事をしているのですが、イタリアン塗料を使った「特殊塗装」も行いながら、今後は変わったこと・面白いことをやっていきたいなと思っています。

具体的に、取り組んでいるのは色や質感を表現するテクスチャーアートと呼ばれるものです。壁に奥行きなどを表現できるのがめちゃくちゃ面白いので、このイタリアン塗料を使ってさらにいろいろな奥行き感だったり、ちょっと古びた感じだったりを表現できればなと思っています。

つくりたいのは、「何かすごい」ものですね。すごく絵のテクニックがある訳ではないのに有名な人もたくさんいるし、アートって「何かすごい」が一番すごいと思うんです。僕は器用でもないけれど、「何かすごい」って感じさせるものを作っていきたいです。

ーーテクスチャーアートを始めたきっかけを教えてください。

建築塗装の仕事をしている中で知りました。高層ビルだと、高層階だけ壁の仕様が変わっていることがあるんですよ。それを、こういったイタリアン塗料を使って作るんです。「塗装ってただ塗るだけだと思っていたけれど、こんなアーティスティックなのもあるんだ。面白いな」と思って。

もちろん経験を積んだ職人さんが身に付けた細かい技術なんかはあるけれど、やっぱり普通に塗るだけだと、白くするのも黒くするのも誰だってできる。それがテクスチャーアートだとお客さんに「何かすごい」と思ってもらえるものを作れるので、それが魅力ですね。

ーーテクスチャーアートで使う道具の紹介をお願いします。

使う道具は、U字型の刷毛、ブラシ、コテなど。正直、まだ道具にそこまでこだわりはないので、逆にここから自分なりのこだわりをいろいろ作っていきたいと思っています。

特徴的なU字型の刷毛は、同時に2職の色を塗れるようになっているんですが、一般的な塗装だと使うことはありません。例えば上を白、下を黒で塗るみたいに、2色を塗る必要がある時でも基本的には同時に塗る必要はなくて、白を塗って、乾かしてから黒を塗ればいいだけですから。今はマーベリクスという技法のときに使っているだけなので、別の使い方も考えてみます。逆に、面白そうな使い方があったら教えてほしいです(笑)。

ーー作品について紹介してください。まずは海面の様子を描く「マーベリクス」から。

これはベースの塗料の上にU字の刷毛で色味の違う2色の白を塗って、潮の様子を自然に出していく感じです。潮の表現の仕方がポイントで、始めの頃はずっと潮が全部繋がるようにしていたんです。今はあえて繋がらないように刷毛で崩したり、散らしたりして。とにかく、人の手を加えていない感じを出します。作業中は、俯瞰で見るのが一番重要かな。ずっと近くで見ていると、「ここ変だな」という部分があっても分からなくなるんですよね。だから遠くからも見るように気をつけています。

ーー大理石風の仕上がりとなる「ロココ」についても、ご紹介ください。

コテでいろいろな方向に塗料を層状につけていって、最後に磨くと仕上がります。これは、段取りさえ間違えなければそんなに下手な方向にいくことはありません。でも、めちゃくちゃ綺麗に仕上がるんですよ。

ーー今後の目標を聞かせていただけますか。

今はまだ従業員が一人ですが、もっと増やして、塗装を教えられる施設をつくるなどして後輩たちを育てていくのが目標です。一般的な建築塗装から特殊塗装までを教えられるような設備が整っていて、練習できる施設があれば技術を覚えるスピードを速められるのにと思っていたので、会社としてそういう場を作りたいです。

個人的な目標としては、鹿児島県の離島・喜界島をアートで町おこししたいと思っています。僕は母親の出身地である八丈島生まれなのですが、父親の出身が喜界島なんです。人口減少しているので島のために、というとそれっぽい言い方になってしまうんですが、「何かすごい」を世の中にもたらしたい思いを喜界島で実現します。生きているうちに人に影響を与えたり、嬉し泣きするくらい感動させたりしたい思いと、親孝行したい気持ちとをでかいスケールでやりたいと考えたら、それがベストだなと思って。10年以内にやります!といろいろな人に宣言しているんです。

ーー徳島さんは、アートをもっと広めて身近なものにするにはどうしたらいいと思いますか。

僕の考えている喜界島の町おこしもアートを広める手段になると思います。いろいろなアーティストさんが島に来て、アートと、日本の和をかけ算したイベントなどを行う。すると、観光で喜界島が盛り上がる。日本も盛り上がる。そしてアートも盛り上がる。そんな風にしていければと思っています。

テクスチャーアートで「何かすごい」を実現していく

建築塗装の世界で特殊塗装に出会ったことを機に、テクスチャーアートを用いて出身地の町おこしや後輩育成についても考えている徳島さん。休日が取りにくい等、業界で当たり前になっている働き方を変えていきたい思いや、作業着をプロデュースしたいアイデアももっていると、熱を込めて語っていた。

想い描いていることを実現していくため、SNSでの発信に力を入れたり、他の分野の人・モノとコラボレーションしたりと、まずは特殊塗装の認知を広げていきたい考えだ。取材時だけでも挑戦してみたいことが次々と生まれており、今後も増えていくのだろうと感じられた。

特殊塗装を使ったテクスチャーアートで、徳島さんはどんな世界を創り出していくのか。今後の動きに注目したい。